今回はCRM導入の失敗について書きたいと思います。
「CRMシステムを導入して失敗したケースを教えてください」というのは、実は結構よくある質問です。成功事例・成功要因を聞いても、ほとんどの場合、商売じみたことしか言われません。「失敗事例」を聞くというのは非常に正しいアプローチです。
ただし事例というのは「結果」だけの話ですので、今回は失敗する「要因」を書きたいと思います。筆者が20年ほどCRMに関わった経験に基づき、あまり世間に出ていないCRM失敗の本質的な要因を、5点ほど挙げてみます。
システム導入なのに「意識改革」が前提となっている
SFA(営業支援)系の導入で一番失敗するケースがこれです。逆説的ですが、営業の意識などそう簡単には変わりません。
たとえば「属人的な営業から組織的な営業に変える」という考え自体は間違っていません。しかしシステムを導入しただけで、属人的な営業から組織的な営業に変わる訳ではありません。システムベンダー(販売会社)が「CRM(SFA)の導入を成功させるには意識を変える必要があります」と言ってきた場合には、非常に危険です。
もちろん意識を変えていくことは重要ですが、システム導入とは関係ありません。もともと意識の高かった人が先導することで、システム導入をきっかけに徐々に全体の意識が変わっていく可能性はありますが、それを前提にシステム導入すると、まず失敗します。
余談ながら、筆者はシステム導入を伴わない「営業力強化」のプロジェクトをコンサルした経験が何度かあります。プロジェクトに参加した営業マネージャたちと激論を交わしながら、自社の営業マネジメントのあるべき姿をまとめ、案件管理や部下指導の方法を統一して、実際の業務として回せるようになるまでは約1年かかりました。頂いた費用もかなりの額になります。
最終的には現場にとっても満足のいく良い形になったと自負していますが、その経験から書かせて頂けば、営業改革というのはシステム導入の「ついで」に行えるほど、甘いものではありません。ましてや「意識を変える」というアプローチになると、これはメンタルの問題も絡みますから、それ系の合宿を受けるしか方法はないのではないでしょうか(お勧めはしませんが……)
現状よりも業務量が増える
1番の「意識改革が前提となっている」とも繋がっている話ですが、実際に今やっている作業にプラスしてCRM(SFA)の入力作業が発生する場合、システム導入によって「今より業務量が増える」結果になります。
先ほどの例のごとく、今までのやり方、たとえばExcelを使った案件管理からCRMを使った案件管理へ変えるにあたり、「意識を変えろ」とだけ指示されても、現場は今までのやり方(Excel)にプラスしてCRMの入力作業を(嫌々)行う……という結果になります。
システム導入直後で経営陣が息巻いているときは、無理してCRMを使いますが、しばらく経つと……当然だれも使わなくなり失敗します。
現状業務をそのままシステム化
これも非常に多い失敗ケースです。とにかく今やっている業務をそのままシステム化。現場の要望にただひたすら答えようとするあまり、現状の非効率な業務・間違った業務をそのままシステム化してしまう、ということが起きます。
当然、開発コストも増えますし、そもそも何のためのシステム導入か分かりません。このようなケースだと、システムが使われないという失敗はないのですが、システム投資に見合う成果が上がったか?という観点でみれば完全に失敗となります。
パッケージに業務を合わせる
ERPの導入などでは未だに「パッケージはベストプラクティスだから業務をパッケージに合わせた方が良い」という言葉を耳にします。
しかし、たとえば会計の処理であれば、「システムを使う=業務を遂行する」ですが、CRMの場合「顧客満足度の向上」「顧客接点の拡充」「営業支援」などが目的となる為、「システムを使う=業務を遂行する」ではありません。したがって、マーケティングや営業が強いことで有名な会社のシステムをそのまま持ってきたところで、その会社の同様にマーケティング上手な会社や営業が強い会社になる訳ではありません。
マーケティングや営業の領域において、ベストプラクティスとなりうるのは、その会社の組織・制度・人材・風土・トップであり、ITシステムではないということです。
扱っている商品-サービス、ターゲットとなる顧客、自社のポジションや自社の強み・弱みなどを複眼的にみて、現状のやり方を具体的にどう変えていくのかを明確にした上で、業務側にシステムをマッチさせていく必要があります。
本来は同じ顧客であるにも関わらず、重複して登録されていたり、名前も誤って登録されているため名寄せもできずに、メール配信・各種案内の送付・年賀状送付などを結局バラバラのExcelで管理している、というケースを見かけます。システムとしては顧客管理を行なう機能があるのですが、意識せずに導入してしまった為の結果と言えます。
ちゃんと企画書を作らない、プロジェクトチームを作らない
CRMシステムを導入するということは、少なからず今までのマーケティングの方法や、営業、サポートの方法を変えるということです。ただ単にベンダーの提案書をコピペして稟議を通し、インプリ(導入設定)もベンダー任せでは、絶対に失敗します。この点において奇策はありません。
当たり前ですが、ちゃんと自社のあるべき姿と、現状のギャップを洗い出し、企画をまとめ、プロジェクトチームを構成して導入する必要があります。また企画のフェーズのみコンサルに丸投げする企業もありますが、これも失敗します。
ベンダーやコンサル任せにすると、失敗したときは彼らのせいにできますが……CRM導入にあたっては自社の問題を自分たちで解決するために主体性を持ったうえで、コンサルやベンダーを上手く使っていく必要があります。1~4番のようなことが起きるのも、ここがしっかり出来ていない場合が多いです。
まとめ
CRMシステム自体は、クラウドで申し込めば、すぐに使えるサービスも増えてきており、導入のハードルは昔に比べればとても下がりました。しかしCRM導入で失敗している企業は、未だ非常に多いのが現状です。システム導入が気軽になった分、失敗していることを認識していない企業も多いようです。
たとえば「完璧じゃないけど、法人データや名刺情報の登録・参照、一部の部門では営業活動の登録をしています」。
本来、この程度の利用方法であれば、御大層なシステムである必要はありません。しかし、一部では使われているという理由で利用停止する事もできず、莫大な金額をSaaSベンダーに毎月支払っている企業が結構あります。筆者からみれば、これも導入失敗です。
さて、CRM導入失敗のケース5点+αを挙げましたが、いかがでしょうか? このような失敗を少しでも減らすため、CRM導入の際には、参考にして頂ければ幸いです。