「CRMを入れたのに、誰も使ってくれない」
「現場から『前の方が良かった』と言われる」
「結局Excelに戻ってしまった」

CRM導入プロジェクトでこうした失敗を経験した方は少なくないはず。
数百~数千万円を投資し、ベンダーとの打ち合わせを重ね、満を持してリリースしたのに、なぜ「現場に受け入れられない」といった事態になるのでしょうか。

原因の多くは、導入前に現場の業務を十分に理解できていなかったことにあります。機能比較表やデモ画面だけで選定を進めた結果、実際の業務とのズレが生じ、「使いにくい」システムになってしまうのです。

この問題を防ぐのが、導入前の「業務インタビュー」です。この記事では、現場の実態を把握し、使われるシステムを設計するための進め方を解説します。

なぜCRM導入前に業務インタビューが必要なのか

CRM導入の失敗の多くは、導入前に現場を十分に理解できていなかったことが原因です。業務インタビューは、現場の実態と課題を深く理解するための対話です。形式的なヒアリングではなく、以下のような効果が得られます。

  • 業務の属人化を可視化できる
  • 実際の業務フロー(現状=As-Is)を把握できる
  • Excel・メール・口頭などの運用実態を明らかにできる
  • 現場の本音(心理的負担・手戻り)を引き出せる
  • ムダなカスタマイズを防げる

押さえるべき“業務インタビューの5つの項目”

業務インタビューを効果的に進めるには、あらかじめ「何を聞くか」を整理しておくことがポイントです。ここでは、ぜひ押さえておきたい5つの項目をご紹介します。これらを意識して質問することで、必要な情報をもれなく聞き出すことができます。

① 担当者の役割・担当業務・取り扱い製品/顧客

担当業務の全体像と、業務の中で何を重視しているのかを把握します。たとえば、売上を重視する営業担当と、問い合わせ対応を主とするサポート担当では、CRMに求める役割が異なります。この前提を押さえることで、実態に即したヒアリングができます。

確認する項目例
  • 担当者の役割・ミッション
  • 主担当としての業務範囲
  • 担当している製品・サービス
  • 顧客の種類(代理店/エンドユーザーなど)
  • KPIやチーム目標

② 業務フロー(現状=As-Is)と利用システムの整理

実際の業務プロセスと使用システム・ツールを確認し、自動化や標準化が可能なポイントを把握します。特に複数システム間のデータ転記、手作業での集計、部門間の情報共有に時間がかかっている箇所は、CRMで改善できる可能性が高い領域です。

確認する項目例
  • 主要業務のプロセス
  • 対応の流れ(案件・問い合わせ・管理作業など)
  • 使用しているシステム・ツール
  • 二重入力や転記作業が発生しているか
  • 部門間のやり取りがどこで滞りやすいか

③ 現場が感じている課題の棚卸し

現場で感じている課題を整理します。評価や結論を急がず、日々の業務で感じていることを率直に共有してもらいましょう。
一見すると個人的な困りごとに見える内容でも、部門全体に共通する問題であるケースは少なくありません。組織全体の課題と個人レベルの課題を切り分けながら、特に売上や利益に影響しているポイントを押さえることで、CRM導入の効果を説明しやすくなります。

確認する項目例
  • 日常業務の中で困っていること
  • 部門全体として課題だと感じている点
  • システムに関する使いづらさ(検索性・入力負荷など)
  • 売上や利益に影響しているボトルネック
  • ミスが発生しやすい作業工程

④ 競合環境・自社の強みや取り組み

マネージャーや経営層へのヒアリングでは、業界の状況や自社の立ち位置についても確認しておきましょう。たとえば、競合が価格を重視する一方で自社は提案力を強みにしている場合、CRMに求められる役割も変わってきます。

確認する項目例
  • 業界や顧客ニーズの変化として感じていること
  • 他社と比較したときに気になっている点
  • 現場で感じている自社の強みや、これまで工夫してきたこと

⑤ CRMに期待すること・実現したいこと

CRMに期待することを確認します。実現可否は気にせず、「こうなったら助かる」と感じていることを幅広く出してもらいましょう。集まった意見は、後の要件整理のベースになります。

確認する項目例
  • 効率化したい業務や作業
  • 把握できるようにしたい情報
  • 自動化したい業務(通知、承認、登録作業など)
  • 報告や情報共有で負担に感じている点

CRM導入の業務インタビュー事例:製造業で浮かび上がった課題

ここからは、実際の業務インタビュー事例を見ていきましょう。
今回インタビューを行ったのは、製造機械メーカーのアフターサービス部門です。
本社バックオフィス(見積・手配・工程管理)、各地の現場拠点(顧客対応・拠点管理)、設計部門(機械・電気)の担当者にヒアリングを実施しました。

数十名規模のチームが複数の既存システム(見積、在庫、ワークフロー、図面管理、CADなど)とExcelを使い分けながら業務を行っていました。

インタビューで分かったこと

9名へのインタビュー結果を分析し、以下のように「結果」「課題」「原因」の3つの層に整理しました。

業務インタビューでは、問題を「結果」「課題」「原因」の3層で捉えることが重要です。

たとえば事例のインタビューでは「⑤CRMに期待すること」として、こんな要望が挙がりました。

  • 製番を入れれば見積・製番・工程・カレンダーなどが参照できる一元的な台帳が欲しい
  • 機械ごとの図面一式やメンテナンス履歴をすぐに参照できる仕組みが欲しい
  • 部品検索を改善し、見積作成を簡素化したい(二重入力を削減したい)

インタビューでは、要望をそのまま受け取るのではなく、「なぜそれが必要なのか」をしっかり掘り下げるのがポイントです。

たとえば「一元的な台帳が欲しい」という要望に対して

なぜ必要? → 今は製番・見積・工程が別々のシステムで管理されているから
それで何が起きている? → 情報を探すのに時間がかかり、見積が遅れている
なぜそうなった? → 長年、システムを統合せず放置してきたから

このように掘り下げることで

結果: 見積作成や部品手配に時間がかかっている
課題: 情報が複数のシステムや担当者に分散している
原因: 一元管理する台帳がなく、レガシーシステムが放置されている

という3層構造が見えてきます。
だからこそ「見積が遅い」という結果だけを見て機能を追加しても、根本的な解決になりません。
必要なのは、原因まで掘り下げたうえで、適切な機能と運用を設計することです。

業務インタビューを効果的に進めるための考え方

ここまで、インタビューの5つの項目と実例を紹介してきました。
実際の現場では、質問項目そのもの以上に「どの情報をどう扱うか」というスタンスが、インタビューの質を左右します。

チェックリストとして使いつつ、脱線も歓迎する

5つの項目は、聞き漏れを防ぐチェックリストとして有効です。一方で、項目を埋めることだけに集中すると、表面的な情報収集で終わってしまいます。

たとえば「②業務フロー」のヒアリング中に、担当者が「実は見積の前に、いつも○○さんに電話で確認するんです」と話したとします。これは項目からは外れていますが、属人化や情報分散の重要なヒントです。

特に注意したいのは、型を前提に話を聞くことで、無意識に誘導質問になってしまう点です。項目から外れた話題の中にこそ、業務の実態や構造的な課題が含まれていることも少なくありません。
重要なのは、話しやすい空気をつくり、違和感を覚えた部分に立ち止まり、背景を掘り下げる姿勢です。

限られた時間で何を深掘りするか

脱線も歓迎とはいえ、インタビューの時間は無限にあるわけではありません。すべての話題を深堀っていてはきりがないので、CRM設計に直接関係する領域から優先的に深掘るようにしましょう。

優先的に深掘りしたいポイント
  • 手戻り:なぜやり直しが発生しているのか、どの工程で起きているのか
  • 情報分散:情報がどこに存在し、なぜ集約できていないのか
  • 属人化:誰が判断・対応しており、なぜ共有されていないのか
  • 不満が生じる瞬間:具体的にどの場面でストレスや非効率が発生してるのか

これらは、画面設計・項目設計・権限設計に直接影響します。「なぜそうなっているのか」「具体的な場面は何か」をしっかり掘り下げておきましょう!

一方で、以下のような情報は深掘りの優先度が低いケースが多いです。

深掘りの優先度が低い情報
  • 精度や規定の説明:変更できない前提条件として整理
  • 抽象的な要望:「効率化したい」「見える化したい」といった表現
  • 公式プロセスのみの説明:建前としての業務フロー

優先度が低いため、前提条件や仮説として整理したうえで、実態とのズレがないかを確認する位置づけとしてメモしておきましょう!

CRM設計では「正常系のフローが本当に機能しているか」「例外やイレギュラーがどれだけ発生しているか」を対比して把握することが欠かせません。

特に、例外対応・非公式な工夫・担当者間の暗黙の連携には、改善のヒントがあることも多いです。

まとめ

業務インタビューは、CRM導入の成否を左右する重要なプロセスです。

本記事で紹介した5つのインタビュー項目(①役割・担当業務、②業務フロー、③現場の課題、④競合環境・自社の強み、⑤CRMへの期待)を使い、「なぜ?」を繰り返して掘り下げることで、「結果→課題→原因」という3層構造が見えてきます。

製造業の事例で見られた情報分散や属人化の課題は、多くの組織に共通します。

「見積が遅い」という結果だけを見て機能を追加するのではなく、原因まで掘り下げることで本質的な改善策を検討できるようになります。

まずはインタビュー対象者をリストアップし、本記事の5つの項目を質問シートに落とし込むことから始めてみてください。1人30~60分を目安にリラックスした雰囲気でヒアリングを実施し、聞いた内容を「結果→課題→原因」の3層で整理していきましょう。