顧客志向とは企業活動の中心を「顧客理解」に置き、顧客のニーズに沿った価値を継続的に提供する経営の考え方です。
しかし、実際には顧客情報が部門や担当者ごとに分散し、対応の一貫性が保てない、顧客のニーズを把握できないといった課題を抱える企業も少なくありません。
顧客志向を実現するには「理念」ではなく、顧客データをもとに理解・対応・改善を繰り返す仕組みが必要です。
本記事では顧客志向の本質から、顧客志向におけるCRMの役割まで、わかりやすく解説します。
- 顧客志向と売り手志向の違い
- なぜ今、顧客志向が重要なのか
- 顧客理解の精度が競争力を左右する理由
- CRMが顧客志向実現に果たす役割
顧客志向とは?売り手志向との違いを理解する
顧客志向とは企業活動の中心を「顧客が何を求めているのか」に置き、顧客の期待に沿った価値を継続的に提供するという考え方です。
単に“顧客の声を聞く”という姿勢ではなく、顧客がどのように意思決定し、どのような体験を重視しているのかを理解する。それに合わせて事業やサービスを最適化する姿勢を指します。
従来のように「売れる商品を作ればよい」という発想(売り手志向)では、顧客行動が多様化した現在の市場に対応することが難しくなっています。
この課題を解決する考え方が顧客志向です。
関連記事:CRMとは?

売り手志向(プロダクトアウト)とは
顧客志向を正しく理解するには、その対比となる「売り手志向(プロダクトアウト)」を知っておくことが重要です。
売り手志向とは、企業が主体となって「自社が作りたいもの」「得意なもの」を中心に商品やサービスを設計し、市場に投入する考え方を指します。
つまり、企業視点で価値を定義し、市場に押し出していくアプローチです。
- 自社の技術・製品を起点に企画が進む
- 「市場に何を提供するか」を企業側が主導して決める
- 「良いものを作れば売れる」という前提で戦略が組まれる
- 成果は売上・数量・製品の拡販で測られる
- 顧客行動や個々の体験よりも、製品そのもののう優位性を重視する
このアプローチは高度経済成長など技術力や製品力で差別化できた時代には有効でした。しかし、市場が成熟し、類似製品やサービスが増えた近年では、企業の「これを売りたい」という動機だけでは顧客に選ばれ続けることが難しくなっています。
そのため、現代では「企業が提供したい価値」から「顧客が求める価値」へと発想を転換する顧客志向(マーケットイン)へのシフトが求められています。
顧客志向と売り手志向の3つの違い
「顧客志向」と「売り手志向」は、価値をどこから生み出すか(起点)と、何を成果とみなすか(評価軸)が大きく異なります。
| 売り手志向(Product Out) | 顧客志向(Market In) | |
| 起点 | 企業側主導の価値提供(自社の製品や技術を基点) | 顧客の価値観・行動を中心に設計 |
| 戦略の中心 | 製品やサービスそのものの優位性 | 顧客体験(CX)や満足度を重視 |
| 成果指標 | 売上・拡販など短期的成果 | 継続的な関係(LTV・ロイヤルティ) |
両者の違いは「企業主導か、顧客起点か」という一点に集約されます。
顧客志向が求められる3つの理由
顧客志向がこれまで以上に重要視されるようになった背景には、市場環境と顧客行動の大きな変化があります。
いまや「企業が売りたいもの」ではなく、「顧客が選びたいもの」が市場を動かす時代です。
顧客の選択肢が圧倒的に増えた
検索エンジンやSNS、ECサイトの普及により、
顧客は自分で情報を集め、比較検討できる環境を手にしています。
かつては“企業が情報を握る側”でしたが、今では顧客の方が情報優位に立っています。
類似商品や競合サービスが増えた結果、
単に「良いものを作る」だけでは選ばれる理由にならなくなったのです。

顧客の比較・検討行動がより複雑になっている
情報取得手段が増えたことで、顧客の意思決定プロセスはより複雑で段階的になりました。
- 検索で自ら情報収集する
- 口コミ・レビュー・SNSで評価を確認する
- 複数社を比較検討し、納得してから行動する
つまり、顧客は企業の発信情報に依存せず、自分に合うブランドを主体的に選ぶようになっています。
こうした購買行動の変化に対応するには、顧客の期待や行動を正確に把握し、最適なタイミングで価値を届ける仕組みが欠かせません。

CX(顧客体験)が購買決定を左右する
製品・サービスの差が縮まり、機能面だけで差別化できない昨今では「どんな体験を提供できたか」が顧客の選択基準になっています。
- 問い合わせや営業対応の質
- 情報提供のわかりやすさ
- 導入・利用のスムーズさ
- アフターサポートや継続フォロー
こうした体験全体が、顧客満足やロイヤルティを左右します。
特にBtoBでは、製品そのものよりも「導入後の体験」が契約継続(LTV)に直結します。

顧客志向における情報管理とデータ活用の重要性
顧客志向を実現するには、顧客がどのような行動をとり、何を期待しているのかを正確に捉える”情報の基盤”が欠かせません。
関係構築は、継続的に顧客を理解し、その理解に基づいて最適なコミュニケーションを重ねるプロセスです。企業が感覚や属人的な判断に頼っていては、顧客ごとに期待のズレが生じやすく、関係を深めることが困難になります。
顧客データを軸にした意思決定
顧客一人ひとりのニーズや行動を正確に把握するには、組織全体で共有できる顧客情報の仕組みが不可欠です。
営業・マーケティング・サポートがそれぞれ別の情報を持っていると、「同じ顧客」に対する理解や対応にズレが生じ、結果として体験の質がばらついてしまいます。
顧客理解を企業全体で高めるには、
- 顧客データを一元的に管理する
- 最新の情報を誰でも確認できる状態にする
- •データを根拠に意思決定を行う
といったような仕組みが求められます。
感覚ではなく“データで顧客を見る”
属人的な経験や勘に頼った対応では、顧客志向を再現性のある形で実践することはできません。
一人の担当者が持つ感覚ではなく、データを共通の言語として顧客を理解することが大切です。
- 興味・関心を持っているテーマ
- これまでの接点ややり取りの履歴
- 抱えている課題や期待
- 評価が高まった・離脱したタイミング
こうした情報を蓄積・更新しながら、顧客像を常に最新に保つことで、
“そのときの顧客”に合った提案やコミュニケーションが可能になります。
顧客志向を実現するCRMの役割
顧客志向を実践するには、顧客理解を組織全体で共有し、継続的に深めていく仕組みが欠かせません。
とはいえ、顧客データをためるだけでは十分ではありません。
顧客志向を実現するには、顧客の状況やニーズを把握し、その情報を共有して、担当者に依存しない安定したサービス品質を維持できる仕組みが求められます。
その基盤として活用されるのが、CRM(Customer Relationship Management)です。

CRMは顧客理解と関係構築のための戦略
CRM(Customer Relationship Management)は、一般的に「顧客情報を管理するためのITツール」として認識されがちですが、本来は顧客をより深く理解し、適切な関係を継続的に築くための戦略を指します。
顧客志向を実現するためには、次のような理解が欠かせません。
- 顧客が何を求めているのか
- どんな体験を重視しているのか
- これまでどんな接点ややり取りがあったのか
- 今、どのような支援や情報を必要としているのか
企業が顧客志向を実現するには、これらを継続的に把握し、それを基に行動することが重要です。
そのためには、顧客を理解するための情報を一元化し、関係構築を再現性のあるプロセスとして実行できるようにするCRM戦略が必要です。
CRMシステム(ITツール)は、この戦略を現場で確実に実行するための手段にすぎません。
ツールを導入するだけでは顧客との関係は変わらず、まずは顧客を中心に事業や業務をどのように設計するかという考え方が求められます。
関連記事:CRMとは?顧客関係管理の基本的な考え方
CRMが顧客志向に不可欠な3つの理由
CRMは、顧客を深く理解し、関係を継続的に築くための戦略として位置づけられます。
顧客を中心にした経営を進めるには、このCRMがどのように顧客志向の実践を支えているかを理解することが欠かせません。
その役割を整理すると、CRMが顧客志向に不可欠とされる理由は大きく3つにまとめられます。
情報の一元化と更新性を実現する
顧客との関係は単発で完結せず、複数の接点の積み重ねによって形成されます。そのため、企業側は以下のような情報を継続的に把握し続ける必要があります。
- 過去の接点および対応履歴
- 現在抱えている課題・期待
- 購買・利用状況
- 部門をまたいだコミュニケーション
- 顧客の行動変化・ステータス変化
これらを担当者の記憶やローカル管理に依存すると、再現性のある顧客理解は実現できません。
CRMを活用すれば、顧客データの統合だけでなく、常に最新の状態で維持し、組織全体で共有するための基盤として機能します。

顧客理解の精度が成果を左右する
顧客情報が分散していると、過去の履歴を踏まえた提案や対応ができず、重要顧客へのアプローチも属人的になりがちです。
その結果、サポート品質のばらつきや商談機会の損失、満足度や継続率の低下といったリスクが生じます。 CRMを活用すれば、顧客にとって適切なタイミングで最適な内容の提案ができ、部門を横断した一貫性のある顧客体験を提供できます。

属人化を防ぎ、組織的な顧客対応を可能にする
顧客志向を組織全体で実践するには、特定の担当者や経験に依存しない仕組みが必要です。CRMによって顧客情報を共有すれば、担当者の異動や退職があっても関係性が途切れず、一貫した品質で対応を継続できます。
これは顧客体験の継続性を保ち、信頼関係を長期的に育てるうえで欠かせません。

顧客志向とDX
デジタル接点の変化にどう対応するか
顧客志向を実践するには、顧客との接点がどのように変化しているかを正しく捉える必要があります。
いまや多くのコミュニケーションがデジタルチャネルへ移行し、顧客を理解する方法そのものが大きく変わりました。
Web、オンライン商談、チャット、メール、SNSなど、顧客は複数の経路を通じて企業と関わります。
しかし、これらの接点が増えるほど、情報は分散し、顧客の行動や意図を一貫して把握することが難しくなります。
- 顧客情報がチャネルごとに分散する
- 顧客がどの経路で何をしているか追いにくい
- 検討状況が把握しづらい
顧客志向を実現するためには、複雑化した接点を統合的に管理し、どのチャネルでも一貫した対応を行える体制が求められます。
そのポイントとなるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
DXとは、単に業務をデジタル化することではなく、顧客ニーズを起点に業務や組織を変革する取り組みを指します。つまりDXの本質は、デジタル技術を通じて顧客志向を実務として定着させることにあります。
顧客志向実現の第一歩
顧客志向を実現するうえで最も重要なのは、顧客を正確に理解し、その理解を組織として継続できる状態をつくることです。
市場環境の変化により、顧客は複数のチャネルで調べ、比較し、企業を選ぶようになりました。その中で企業が選ばれ続けるには、属人的な判断ではなく、顧客データを軸にした関係構築のプロセスを整えることが不可欠です。
CRMは単なる管理ツールではなく、顧客理解と関係構築を”再現性のある業務”として成立させるための仕組みです。この仕組みが整うことで、部門を超えて一貫した顧客対応が可能となり、顧客志向が組織として機能します。

