- 「営業が顧客から受けた仕様変更が製造現場に伝わっていない」
- 「納品時の特記事項を保守部門が把握しておらず、現地での対応に時間がかかった」
製造現場では、営業・製造・保守など複数の部門が顧客や製品に関する情報を扱います。こうした部門間の引継ぎで課題になりやすいおが、必要な情報が一箇所にまとまっていないことです。顧客情報や対応履歴が、営業のメール、製造の指示書、保守の点検台帳、担当者のExcelなどに分散したまま管理されているケースもあります。
こうした顧客情報や対応履歴を顧客単位で整理・管理し、業務に活用する仕組みがCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)です。商談、問い合わせ、納入設備、保守履歴などを顧客と関連づけて記録することで、部門をまたいで必要な情報を確認しやすくなります。
本記事では、製造業におけるCRMの役割と管理できる情報や営業・製造・保守での活用例、製品を選ぶときの確認ポイント、導入・定着の進め方を解説します。
製造業向けCRMとは
造業では、営業段階の商談や顧客要望だけでなく、納入先や設備、問い合わせ、保守対応などの情報を顧客と関連づけて管理することが、CRMの活用方法の一つです。
設備・機器を納入する企業では、納品後も問い合わせや保守対応など、顧客との関係が長期にわたることがあります。顧客企業、担当者、納入先、設備、対応履歴を関連づけて登録しておくと、「この設備について、過去にどのような対応をしたか」を確認しやすくなります。
ただし、どこまで管理できるかは、製品の機能や設定、カスタマイズ、他システムとの連携によって異なります。
CRM・SFA・ERP・生産管理システムの違い
CRMと関連して検討されるシステムには、SFAやERP、生産管理システムなどがあります。それぞれ主に扱う情報や業務が異なります。
| システム | 主に扱う領域 |
|---|---|
| CRM | 顧客情報、顧客接点、問い合わせ・対応履歴など |
| SFA(営業支援システム) | 商談、営業活動、営業の進捗など |
| ERP(基幹システム) | 会計、購買、販売など、企業全体の基幹業務 |
| 生産管理システム | 生産計画、工程、資材・在庫など |
製品によっては、CRMがSFAの機能を含んでいるなど、機能が重なる場合があります。そのため、システムの名称ではなく、「どの情報を、どのシステムで登録・更新するか」を基準に役割を整理することが大切です。
製造業でCRMが必要とされる理由
製造業では、受注から設計・製造、納品、納品後の保守まで、複数の部門が顧客に関わり、それぞれの業務で顧客とのやり取りや製品に関する情報を扱います。
特に設備・機器を扱うメーカーでは、納品後も点検や部品交換、問い合わせ対応が続きます。個別受注生産や多品種少量生産では顧客ごとに仕様や対応が異なるため、管理する情報も複雑になりがちです。
情報がメールやExcel、担当者の記憶に分かれたままだと、次のような問題が起こりやすくなります。
- 顧客から過去の対応について問い合わせを受けても、社内の関係者に確認しなければ経緯が分からない。
- 担当者の異動や不在で、それまでの経緯が分からなくなる。
- 部門をまたぐ引き継ぎで、伝えたつもりの情報が抜け落ちる。
製造業の顧客管理では、顧客を軸に対応履歴を共有し、必要なときに経緯をたどれる状態をつくることが大切です。こうした情報共有が、部門や担当者が変わっても継続して顧客に対応するための土台になります。
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製造業のCRMで管理できる情報と主な機能
製造業でCRMを活用する場合に、管理する情報の例と主な活用場面を整理すると、次のとおりです。
| 管理対象 | 登録する情報の例 | 活用の例 |
|---|---|---|
| 顧客・担当者 | 企業、拠点、担当者、連絡先 | 部門間で顧客情報を共有する |
| 商談・案件 | 顧客要望、提案内容、進捗、対応履歴 | 過去の経緯を踏まえて営業対応する |
| 納入設備 | 納入先、型式、製造番号、納入日 | 問い合わせ対象の設備を特定する |
| 問い合わせ | 内容、対応担当者、進捗、回答履歴 | 対応状況を共有し、対応漏れや重複対応の防止に役立てる |
| 保守履歴 | 点検、修理、交換部品、対応内容 | 過去の対応を確認し、次の対応に生かす |
| 保守契約 | 契約内容、対象設備、期間、更新時期 | 更新確認や継続的な顧客対応に活用する |
上記は、CRMで扱う情報の一例です。すべてのCRMが、これらの項目を標準で管理できるわけではありません。導入時には、自社に必要な情報を登録・管理できるかを確認します。あわせて、顧客情報から納入設備や対応履歴をたどれるなど、自社の業務に必要な形で情報を関連づけられるかも確認しましょう。
CRMの主な機能としては、次のようなものが挙げられます。
- 顧客・担当者情報の登録・検索
- 商談・案件情報の管理
- 問い合わせ・対応履歴の記録
- 顧客情報と納入設備・対応履歴などの関連づけ
- 部署や役割に応じた閲覧・編集権限の設定
- 担当者への通知
ただし、利用できる機能や管理方法は製品によって異なります。自社で必要な情報をどのように管理できるか、実際の画面や設定例で確認しましょう。
製造業でのCRM活用例
ここでは、営業・製造・保守など複数の部門が関わる業務を例に、製造業でのCRMの活用方法を4つ紹介します。
受注から製造への仕様変更の伝達
営業が顧客から受けた仕様変更が製造現場に十分共有されず、変更前の仕様のまま生産が進み、作り直しが発生することがあります。
CRMでは、顧客からの変更依頼の内容、受付日、対応状況、製造担当者への連絡履歴、関係者の確認状況などを共有します。図面の原本や正式な改訂管理は、既存の図面管理システムなどで行い、CRMには変更依頼の経緯と参照先を残す、という役割分担が考えられます。
こうした情報を共有すれば、製造担当者が着手前に、変更依頼が出ているか、誰が確認済みかを見られるようになります。伝達漏れのリスクを下げやすくなります。
製造から保守への製品情報の引き継ぎ
出荷・納品時の調整内容や特記事項が保守部門に伝わっていないと、保守担当者は設備の状態が分からないまま現地に向かうことになります。必要な工具や交換部品を用意できず、対応が長引く場合があります。
CRMでは、納入先、設備の型式・製造番号、納品日、出荷・納品時の特記事項などを共有します。検査データの詳細を別のシステムで管理している場合は、CRMには特記事項の有無と参照先など必要な範囲にとどめ、既存システムとの役割分担を保ちます。
訪問前に設備情報や特記事項を確認できれば、保守担当者は必要な部品や工具を準備しやすくなります。また、過去の対応履歴を確認できる場合は、初動時の情報収集にも活用できます。
保守から営業への情報のフィードバック
部品交換や修理の履歴が保守部門の中だけにあると、営業担当者は設備の状態やトラブルの傾向を知ることができません。メンテナンスや更新の提案を検討するきっかけも得にくくなります。
そこで、修理や部品交換の履歴を、顧客・設備と関連づけて登録します。あわせて、保守契約の対象設備や更新時期も登録しておきます。営業担当者も、顧客や設備に関連する履歴をまとめて確認しやすくなります。
営業担当者が修理履歴や契約の更新時期を確認できれば、設備の状態や顧客の状況に応じて、メンテナンスや設備更新、追加提案の時期・内容を検討しやすくなります。
保守履歴を顧客対応や契約更新・追加提案に生かす仕組みについては、製造業の保守・アフターサービス向けF-RevoCRMをご覧ください。
顧客サポート・問い合わせ対応の迅速化
顧客から不具合や過去の対応について問い合わせがあっても、履歴が共有されていないと、情報収集や社内確認に手間がかかります。
CRMでは、問い合わせ履歴と対応状況に加えて、対象の設備、過去の商談・受注履歴、保守履歴を確認できるようにします。
担当者が不在でも、ほかのメンバーが経緯を把握して対応を進めやすくなります。社内への確認も、履歴を見れば済む範囲が広がります。
製造業のCRM導入事例
株式会社キューヘンは、給湯機器の製造・販売・アフターサービスを手がける企業です。同社では、FAXと電話を中心とした修理受付に、転記や確認の手間がかかっていました。協力会社への個別連絡や、修理の進捗確認にも課題がありました。
F-RevoCRMで修理受付の業務フローを構築し、修理依頼の登録後に協力会社へ依頼メールを自動送信する仕組みを整えました。協力会社は専用のポータルサイトで依頼内容を確認し、修理完了後の保証書作成も行います。修理の進捗を社内と協力会社で共有できるようになりました。
公開事例では、FAXと電話による確認の手間や作業負荷の軽減、記録の蓄積による業務の標準化、顧客からの進捗問い合わせへの対応改善が紹介されています。
導入の背景や具体的な運用については、株式会社キューヘンの導入事例をご覧ください。
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製造業向けCRMの選び方
製造業向けの顧客管理ツールを選ぶときは、機能の多さや知名度だけで判断しないことが大切です。営業・製造・保守など複数の部門が使うため、「自社の情報を必要な関係で管理でき、現場が使い続けられるか」を軸に確認します。
現場が入力しやすい操作性
高機能でも入力の負担が大きいと、現場で継続して利用するうえで負担になる可能性があります。「使いやすそうか」という印象で終わらせず、次の点を確かめます。
- 日常業務で必要な情報を、少ない操作で入力・検索できるか。
- 実際に使う担当者が、画面を試せるか。
- 外出先から利用する場合、手元の端末や利用環境で使えるか。
顧客・設備・履歴を関連づけて共有できるか
顧客企業、納入先、設備、問い合わせ、保守履歴を、自社に必要な関係で管理できるかを確認します。たとえば、ある設備の画面から過去の問い合わせや修理履歴をたどれるか、といった点です。
部署によって閲覧・更新できる情報を分けたい場合は、権限設定で細かく制御できるかも確認項目に入れておきます。
ERP・生産管理システムとの連携
CRMと既存システムで同じ情報を扱う場合、連携方法や入力ルールが決まっていないと、二重入力が発生するおそれがあります。このため、「連携できる」という表記だけでは判断できません。次の点を具体的に確認します。
- どの情報を連携するのか。
- 登録・更新は、どちらのシステムで行うのか。
- 連携の方法や更新の頻度は、業務に合っているか。
- 連携の構築・維持に必要な費用と運用負担は、どの程度か。
業務に合わせた調整と導入後の支援
扱う製品や生産方式、管理項目は企業ごとに異なるため、標準の画面や項目のままでは業務に合わないことがあります。項目、画面、業務フローをどの範囲まで調整できるか、導入・運用の支援がどこまで受けられるかを確認します。
ただし、調整できる範囲が広いほどよい、とは限りません。カスタマイズを重ねると、あとから項目を変えたり製品をバージョンアップしたりするときの保守負担が増える場合があります。調整の範囲と変更時の負担を、あわせて確認しておきましょう。
導入・運用にかかる費用
費用は、月額や年額の利用料だけでは判断できません。次のような範囲で、何が含まれ、何が別途かかるのかを確認します。
- 初期構築(環境の準備、初期設定、データ移行など)
- 利用料
- 項目や画面のカスタマイズ
- ERPなど他システムとの連携
- 導入時・導入後のサポート
導入後に項目を追加したり、連携の内容を変更したりするときの費用も確認しておきましょう。複数の製品を比較する場合は、利用するユーザー数、必要な機能、カスタマイズやシステム連携の範囲、サポート内容など、できるだけ条件をそろえて見積もりを確認すると比較しやすくなります。
CRM導入を進める手順と定着のポイント
CRMは、導入しただけでは現場に根づきません。ここでは、実行する順に5つの手順で整理します。
業務課題と情報の流れを整理する
最初に、現在の情報の流れを洗い出します。「誰が」「何の情報を」「誰に」「どの方法で」引き継いでいるのかを書き出す作業です。対象は、受注情報、顧客要望、仕様変更、出荷情報、設備情報、保守履歴などです。
あわせて、CRMを入れる目的を具体的にします。「CRMを導入すること」自体を目的にせず、情報の確認にかかる時間、対応漏れ、引き継ぎの負担など、改善したい課題を明確にしておきます。
CRM・Excel・既存システムの役割を分ける
CRMの導入を検討する際は、Excelをなくすこと自体を目的にする必要はありません。Excelでも情報を共有できますが、ファイルを担当者ごとに保存したり、メールで受け渡したりする運用では、最新版や更新内容を把握しにくくなる場合があります。また、顧客情報、設備台帳、対応履歴を別々のファイルで管理していると、関連する情報を確認するたびに複数のファイルを参照しなければなりません。
そのため、ExcelかCRMかを一律に決めるのではなく、情報の用途や共有範囲に応じて役割を分けることが大切です。たとえば、部門をまたいで継続的に共有・更新する顧客情報や対応履歴はCRM、個人での一時的な集計や計算はExcelというように、適した管理方法を選びます。
具体的には、次のように役割を整理できます。
| 管理する場所 | 情報の例 | 考え方 |
|---|---|---|
| CRM | 顧客情報、案件の進捗、問い合わせ・対応履歴、設備情報、修理・部品交換の履歴など | 複数部門で継続的に共有・更新する情報 |
| Excel | 個人の作業メモ、一時的な売上集計・試算など | 他部門への共有が不要な、個人作業や一時的な作業 |
| 既存システム | 図面、生産計画、在庫など | 既存システムの管理範囲を踏まえ、CRMからは参照や連携で扱う |
情報ごとに、どのシステムを更新元とするか、変更内容をほかのシステムへどう反映するかも決めておきます。システム間で同じデータを保持する場合でも、それぞれで個別に更新する運用を避ければ、情報の不一致や二重入力を減らしやすくなります。
課題の大きい業務から小さく始める
最初から全社で全機能を使うことを前提にせず、課題が大きく、改善の効果を確認しやすい範囲から始めます。始めやすい例は次の3つです。
- 営業の案件管理:引き合いから受注までの情報を集約し、見積書や顧客要望の共有を進める。
- 問い合わせ履歴管理:顧客対応の履歴を一か所にまとめ、検索や引き継ぎの負担を減らす。
- 保守履歴管理:点検記録や交換部品の履歴を蓄積し、設備情報の共有に役立てる。
小規模な運用で「情報を探しやすくなった」「引き継ぎの負担が減った」などの変化を確認しながら、入力ルールや運用方法を見直し、その後の展開範囲を検討します。
入力ルールと利用場面を決める
現場に十分な説明のないまま運用を始めると、「入力作業が増えただけ」と受け取られる可能性があります。そのため、入力を依頼するだけでなく、誰が・いつ・何を登録し、その情報をどの場面で使うのかまで決めておきます。
- 誰が入力するのか(入力担当者)
- いつ入力するのか(訪問後、問い合わせ対応後など、業務の区切りのタイミング)
- 必ず入力する項目はどれか(必須項目は絞り込む)
- 登録した情報を、どの場面で確認するのか
最後の点が特に重要です。「入力してください」と依頼するだけでは続きません。営業会議での案件確認、問い合わせを受けたときの履歴確認、訪問前の設備情報の確認など、具体的な場面を想定しておきます。登録した情報を日常業務で活用する場面を設けることで、入力する目的を現場にも理解してもらいやすくなります。
現場の意見と運用状況をもとに改善する
運用を始めたあとは、現場の声と実際の使われ方を確認しましょう。チェックするのは、入力の負担、情報の探しやすさ、引き継ぎの状況などです。入力されない項目があれば、その項目は本当に必要か、入力しにくい理由は何かを検討し、項目や運用ルールを見直します。
最初に決めた運用を固定せず、現場の業務や利用状況を確認しながら、項目やルールを調整していくことが大切です。
まとめ
製造業では、CRMを活用することで、営業から納品後の問い合わせ・保守まで、顧客に関する情報や対応履歴を部門間で共有しやすくなります。導入を検討するときは、次のポイントを押さえて進めることが重要です。
- 導入前に、自社の課題とCRMで管理する情報を整理する。
- Excelや既存システムと役割を分け、情報の更新元や連携ルールを決める。
- 課題の大きい業務から小さく始め、現場の利用状況を確認しながら項目やルールを改善する。
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