インタビュー・導入事例

Interview-東大襖クラブ

60余年にわたり伝統と技術を受け継いできた、東京大学の小さなサークル『東大 襖(ふすま)クラブ』。その名のとおり、部員たちはひたすら襖を張り替え続けており、その腕前は、職人にも匹敵するという。
彼らはなぜ、襖に魅了されるのか?
そして、襖とオープンソースCRMとの関係とは――。

東大 襖(ふすま)クラブの活動

10人以上の入部希望者が、現場へ出る頃には2~3人に

色とりどりのサークル立て看板がずらりと並んだ、3月下旬の駒場キャンパス。
桜の季節には、この看板の前で新入生たちが新歓ビラを受け取るのが、おなじみの光景だ。
しかし襖クラブでは、立て看板は作っておらず、とくに勧誘活動も行なっていないという。

「あまり大勢来てもらっても対応できないんです。教える側の部員がそんなにいないので。それでも毎年どこからか噂を聞きつけて、十数名の入部希望者が来ます。」――と、襖クラブの代表を務める佐々木さん(理学部・情報科学科)は話す。

その入部希望者たちも、一年間の訓練を経て一人前となる頃には、2~3名ほどに減っているという。
やはり、お客さんの襖を張り替えるには失敗が許されないため、相当に厳しい指導があるのだろう、と想像できる。
いまは穏やかに笑っている佐々木さんも、いざ指導となれば、鬼教官になるのかもしれない。

部員は皆、お気に入りの襖紙がある

部室の書棚から、数百ページはありそうな分厚い図鑑のようなものを、佐々木さんが取り出した。襖紙の「見本帳」だという。
電話やメールなどで張り替え依頼が入ると、この見本帳を持って見積もりに行き、どの紙に張り替えたいか選んでもらう。これだけ種類が多いと、一つに決めるのもなかなか大変そうだ。

「お客さんが困ったときは、部員が選んだ紙を勧めています。」紙質や手触りなど、特徴を知り尽くしている部員が、その部屋に合った紙を選んでくれる。素人目には違いのよく分からない紙でも、見本帳のサンプルを実際に触ってみると、たしかに違うものだなということが分かる。

量産品の安い紙は千円程度で買えるが、手漉きの高級和紙では十万円を超えるものがあるという。それだけの高価な紙を張り替えるとなれば、もちろん失敗は許されず、熟練した職人技が必要になるのだろう。

部員たちは皆、お気に入りの紙をそれぞれ持っているんです。たとえばこれなんか、どうですか。いい手触りでしょう。」――そういって襖紙を撫でている佐々木さんは、本当に心の底から襖を愛しているのだと感じられた。

ハケは数十分かけて念入りに洗う、翌日に回すともうダメ

襖の張り替えには、全面に糊(ノリ)を塗るため、刷毛(ハケ)が必要となる。
佐々木さんは6千円のものを愛用しており、高価なものは1万円を超える価格だが、しっかりと手入れをすれば、何十年でも長く使うことができる。
ただし、手入れを怠れば3日でにダメになるという。

張り替えは市価の半額、ただし食事付き

襖クラブの歴史は、戦後間もない頃にまで遡る。
学費や生活費に困っていた学生たちが、アルバイトとして襖の張り替えを始めたのが発端だと伝えられ、かつては早稲田大学や千葉大学など、各地の大学に存在したサークルらしい。
しかし、いまや和室のある家屋も少なくなり、張り替えの需要も徐々に減ってきている。各地の襖クラブは廃部が相次ぎ、今では東大襖クラブを残すのみとなった。

「襖が張り替え可能なものだと知っているのは、だいたい30代以上の人ですね。それより若い人には『襖って張り替えられるんだ!』と驚かれます。さらに小さな子どもたちだと、そもそも『襖って、なあに?』という感じです」

張り替えにあたっては紙代・作業代・交通費などが必要となるが、業者へ依頼する場合と比べれば半額程度。そして、かつての苦学生たちがアルバイトしていた時代からの伝統として、「昼食」を提供してもらっている。海沿いの町へ張り替えに行った際には、獲れたての魚を頂いたことなどもあり、仕事の楽しみのひとつだという。
「学生時代に、こうやっていろんな民家へお邪魔して、お話を伺ったり食事を頂いたりする。こんな良い経験ができるサークル、なかなか無いですよね」

襖の張り替えで、なぜCRM…?

大学サークルでCRMを活用!?

ここまで佐々木さんには襖の魅力をたっぷりと語ってもらい、インタビュアーも入部希望を出したいと思えるほどに、襖の奥深い世界に引きこまれてしまいそうだった。――だが、そろそろ本題に入らなければならない。

長年にわたり伝統と技術を受け継いできた東大襖クラブでは、現在、あることで頭を悩ませている。その課題解決の手段として、オープンソースCRMが使えないかと検討しているのだ。いったい、その課題とは?
そして、大学サークルでCRMが本当に使えるのだろうか…?